ESAKI(花子の紹介番外編)

編集長のレストラン紹介(花子の紹介番外編)

 現地に入ったら現地の食事だ―と気合に満ちていたあのころ…。しかし、云十年が過ぎ、いまや日本人はやっぱり日本食だと堅い信念を抱くに至りました。現在の担当地域は東はイラン、西はモーリタニア、南はエジプト、北はトルコに及ぶ広大な地域。出張先に日本食レストランがあれば、何はともあれ仕事の帳尻をあわせてチェック、同僚同士で情報を共有、門外不出の〝中東日本食ミシュラン〟データベースを日々充実させています。
 これまでの取材からエジプトを除く中東で一番の日本食はアラブ首長国連邦(UAE)の名店、ドバイの「喜作」や「KIKU」、アブダビの「ワサビ」と確信していましたが、何とエジプトから飛行機でわずか1時間のアンマンにドバイ、アブダビに比肩、いやそれを上回ると言ってもいい素晴らしい日本料理店を見つけました。すぐ近くのカイロ、エジプトの日本人の皆さんにもぜひ訪れて同店を盛り立てて頂きたく、編集長の特権?を利用して誌面をお借りすることにしました。
 お店の名前は「ESAKI」。日笠光洋(ひかさ・みつひろ)料理長によると店名の由来は「言葉の響きがいい」のでと、レバノン人のオーナーが決めたのだそうです。場所はアンマン市内、4サークル北側の奥まった一画のブラッセリー「CENTRO」と隣接した場所にあり、2008年10月の開業。表構えには○の中に「半」と判読できるマークが掲げてありますが、意味は魚の骨をモチーフにしているとのこと。

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ESAKI入り口。左がCENTRO

 店内に和風の雰囲気はそれほどありません。中東で流行りのジャパン・コンセプトのレストランバーといった感じか。

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開店前の店内の様子

 日笠さんは34歳、気鋭の料理人。オーストラリア・シドニーのレストランで働いていたころ、お客さまとして来店した在シドニー総領事館の加藤総領事(当時)の目に留まり、その後、中米トリニダード・トバゴに大使として転任することになった加藤さんに請われる形で2003年9月から06年3月まで同国、さらに同3月から加藤さんの駐ヨルダン大使転任に伴い、加藤さんがご退官される08年11月までヨルダンの日本大使館で料理長を務められました。
 われわれカイロの日本人が招かれることもある公邸での年数回のレセプションだけでなく、各国外交団、頻繁に日本から訪れる要人を日本食をはじめとする料理で接遇、「食の外交」を担うのが大使館の料理長。日本以外の場所で繊細な日本料理の食材を見つけるのは容易でなく、また料理をつくるだけでなく、来客に供して接遇する料理長は、私たちが思う以上に難しい職業といえます。大使館の料理長は大使自身が見つけてくることになっており「いい料理長が見つからず、途中で交代してもらったりすることもあって、大変なんです」としんみり話していたのはエジプト以外の中東某国駐在の大使。この難しい役どころを5年間、2カ所にわたって務めた日笠さん、料理の腕だけでなく、人柄のほども推して知るべしでしょう。
 まずはお勧め料理から。料理長のお勧めは「サーモンの炙り寿司」「黒鯛の薄造り」「銀ダラの西京焼き」「ブリかまの塩焼き」「生ガキ」など。この名前を聞いただけで「え、ほんとにアンマンでそんなもの食べられるの」と驚きが。

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調理場で黒鯛の薄造りを盛り付ける日笠シェフ

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サーモンの炙り寿司

 さすがに全部食べると先に進めないので「サーモンの炙り寿司」「黒鯛の薄造り」「銀ダラの西京焼き」を頂くことに。
 炙り寿司をほお張ると、脂がたっぷりのったサーモンに、さっと炙りの香ばしさが一瞬だけ鼻に抜け、うっとり目が細める忘我の境地。外国の寿司でよく出てくるサーモンは独特の脂があまり寿司に合わないのではないかと個人的には好みでなかったのですが、考えを改めました。
 活きのいい、透き通るようなネタをきれいに皿に盛り付けた黒鯛の薄造り。醤油ではなく、ドレッシング風のたれが付いてますが、あくまで黒鯛を引き立てる控えめな味で、ネタにぴったり。頼めば恐らくワサビ醤油で頂けるかもしれません。

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黒鯛の薄造り

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 銀ダラの西京焼き(左写真)も脂がのった最高のネタでした。ベイルートの「オオサカ」で出てくる照り焼きも捨てがたいですが、上品な西京焼きで仕上げた銀ダラも素晴らしい。こんな手の込んだ日本料理が食べられるとは、これだけでも感激です。

 ヨルダンの港と言えばダイバーにも人気の南部アカバ。しかし日笠料理長によると「できれば地元の魚を使いたいのですが、品質が安定しない」らしく、魚の調達は地中海に接するレバノンを中心にサーモンはノルウェー、はまちといくらは日本から空輸しているとのことです。
 サーモンの炙り寿司(4.25JD=約6ドル)、黒鯛の薄造り(10JD=約14ドル)、銀ダラの西京焼き(9.95JD=約14ドル)。以上を頼めば、3人分の前菜としては十分でしょう。
 日笠料理長は瀬戸内海に面し、風光明媚な香川県観音寺市の出身。幼いころよりモノを創造する仕事に就きたいとの夢を持ち、その夢を実現して料理人の世界へ。大阪味吉兆で7年間修業を重ねた本格派の日本料理専門家です。エサキで出てくる料理は伝統的な日本料理の枠をしっかりと保ちながら、現代的な試みも施してあり、繊細な味、盛り付けなどにうるさい私たち日本人の舌、視覚を十二分に満足させてくれるものです。
 客層はアンマン在住の日本人はもちろん、ヨルダン人富裕層、とりわけヨルダン王室の方々も何度か足を運んでおられるとのこと。ヨルダン人のお客さんに人気なのはブラックタイガーの黒胡椒炒め、天麩羅、海老フライココナツ風味などだそうです。

 このほかエサキの主な日本料理メニューは以下の通りです。(値段は2009年7月現在)
枝豆 3.45JD
サーモン刺身サラダ 7.25JD
カニサラダ     3.25JD
天麩羅盛り合わせ 12.95JD
エサキ大皿盛り合わせ(寿司6貫、刺身6切れ、巻きずし6貫)19.95JD
寿司盛り合わせ(12貫)14.95JD
刺身盛り合わせ(15切れ)16.95JD
刺身各種(マグロ、サーモン、カニ、タコ、イクラ、ハマチ、アマエビ、ウナギ、トロなど)

 日本料理と言えば、やはり日本酒。エサキで飲めるのは定番の「松竹梅」に加え、和歌山の「雑賀の郷(さいかのさと)」があります。値段はとっくり(大)で18JD(約25ドル)。先日、カイロ滞在ほぼ3年にして初めて訪れたザマレクの某有名ホテル内の日本料理店でうかつに値段を聞かず頼んだところ、大吟醸とかでないごく普通の一般銘柄300㍉程度で50ドルとられたことを考えると極めて良心的な価格と言えましょう。

 店はラマダン中を除き営業。残念なのは日笠料理長が次のラマダンまでで契約切れとなり、帰国されてしまうことです。現在、東京都内に店を出そうと場所を探しておられるとのことでした。この意味で期間は限られてしまいますが、皆さん、アンマンにご旅行、出張などの機会があれば、日笠料理長がいらっしゃる間に「エサキ」を訪れ、料理長にお声をかけられてはいかがでしょうか。また東京に店を出された後も日笠さんがご活躍されることを祈ってやみません。
ESAKIの連絡先はラマダン休みまで日笠シェフの携帯962-(0)79-741-2190、ラマダン後はマネージャーWesamさんの携帯962-(0)79-717-9888まで。行き方は冒頭にも記しましたが、3サークルから向かって4サークルに来たら、そこを右に曲がって最初の横道を右に入ると左側にすぐESAKIが見つかります。

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「松竹梅」「雑賀の郷(さいかのさと)」が並ぶカウンターバー


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